免疫力を高める生活
昨今、注目を集めている「免疫力」。新型コロナウィルスの流行により免疫力という言葉をよく目にするようになりました。
「免疫」とは病原菌やウイルスなどの異物から体を守る機能のこと。病気に負けないためにはこの免疫力を上げることが重要で、免疫力が高い状態であれば体調の変化への対策につながり、免疫力が低いと体の不調や病気を引き起こしやすいともいわれています。では免疫力を高めるためにはどうすればよいのでしょうか。 今回は免疫力と免疫力アップのための３つの要素について、ご紹介します。
免疫力とは
そもそも免疫力を上げるとは、どういうことでしょうか。 私たちの体は免疫によって病原菌やウイルス、汚染物質といった有害なものに対抗しています。免疫の主役は白血球。白血球はマクロファージ、顆粒球、リンパ球で構成されています。白血球の免疫細胞の種類は大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つに分かれます。
- 自然免疫：生まれつき体に備わっている仕組みで、体内に異物が入り込んだときに真っ先に動き、異物を攻撃する。NK（ナチュラルキラー）細胞やマクロファージ、好中球のこと。
- 獲得免疫：以前体内に入り込んだ異物と同じものが入り込んだ場合に、過去の記憶をもとに異物と戦う。T細胞、B細胞がある。
この２つの免疫は、マクロファージやT細胞、B細胞といったさまざまな免疫細胞が、サイトカインと呼ばれるたんぱく質を分泌し、情報を伝達し合うことで機能しています。つまり免疫力を上げるとは、これらの免疫細胞を活発化させてしっかり働くようにするということです。
獲得免疫の力はとても安定していて病気や精神状態に左右されることはありませんが、自然免疫は不安定で、特に免疫力の要でもあるNK細胞は加齢やストレス、睡眠不足、偏った食生活などの影響を受けやすく、免疫力が大きく上下することが証明されています。活発化させるにはこれらの原因を取り除き、免疫細胞がよろこぶ生活や食事を心がけることで底上げができます。
1.自律神経
ではその免疫細胞を活性化させるためには一体どうしたらよいのでしょうか。そのキーワードとなるのが「自律神経」「腸内環境」です。
自律神経とは、生命維持のために必要となる循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のように自分でコントロールできない機能を調節する役割を担う神経です。白血球による生体防御や免疫システムを支配しているのも自律神経。白血球は顆粒球、リンパ球、マクロファージ（単球）の3種類に分けられ、60％・35％・5％が理想の比率とされ、このバランスが免疫機能を判断する一つの目安となります。この割合は自律神経によってコントロールされていることが分かっています。
自律神経は、昼間や活動時に活発になる「交感神経」と夜間や休息時に活発になる「副交感神経」がバランスを取りながら働いています。
交感神経が優位になると顆粒球が増え、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えるメカニズムになっており、交感神経と副交感神経がバランスよく働いていれば、白血球のバランスも程よく保たれ、免疫力も正常に機能します。
例えば、交感神経が優位になりすぎると、顆粒球が増えすぎてし体内の有益な常在菌まで攻撃して可能性の炎症を起こしてしまいます。逆に副交感神経が優位になりすぎてリンパ球が過剰になると、高原に敏感に反応しやすくなり、アレルギー疾患が起こりやすくなります。
現代の生活ではストレスや不規則な生活、睡眠不足などによって交感神経のほうが優位に働きがち。副交感神経がうまく働かず、顆粒球が過剰に増える一方でリンパ球が減り、免疫力も低下してしまいます。それを防ぐためには副交感神経が優位に働くような生活習慣をしてバランスをとることが免疫力にとっても大切なのです。
| 交感神経 | 活動している時、緊張している時、ストレスがあるときなどに働き、体を緊張状態にして体内環境を整える。心拍数や血圧を上昇させて胃腸の働きを抑える。免疫細胞である白血球のうち、顆粒球の比率を増やす。呼吸が浅くなる。 |
| 副交感神経 | 休息している時、睡眠している時、リラックスのときなどに働き、心拍数・血圧を安定させる。眠気を引き起こす働きや銀杏の動きを活発にする。リンパ球の比率を増やす。呼吸が深くなる。 |
2.腸内環境
さらに、自律神経はもう一つのキーワードである腸の働きもコントロールしています。 腸内には体全体の約7割の免疫細胞が存在します。腸内環境を整えることで善玉菌が増えて活発に働き、悪玉菌を抑えて体内の有害物質を排出するため、善玉菌を増やす食事を摂ることが免疫力を上げることに関係します。 腸の消化吸収や血液循環は自律神経が機能を調整しているため、交感神経と副交感神経のバランスが乱れると、腸の動きも乱れ、腸の免疫細胞も働きが鈍くなります。 自律神経を整えるとともに、腸内環境を整えることが、免疫力アップにつながります。
副交感神経を優位に！免疫力アップのためのポイント
自律神経をうまく働かせて副交感神経を優位にし、免疫力をアップさせるための生活習慣のポイントは大きく４つ。
①からだを温める、代謝・体温を上げる
②質の良い睡眠
③ストレスを減らす
④腸内環境を整える
①からだを温める、代謝・体温を上げる
体温を上げることは免疫力を上げることにつながります。
免疫力が正常に保たれる体温は36.5℃程度。体温が1℃下がると免疫力は30％低下し、逆に1℃上がると一時的に5～6倍アップするともいわれています。風邪をひいたときに熱が出るのは、体が体温を上げることで免疫細胞を活発化させ、病原菌を退治しようとしている証拠なのです。
現代人は低体温傾向にあるといわれていて、平熱が36.5℃未満、はたまた35℃台なんて人もいます。体型や体質的なものもあるかもしれませんが、そこには実は現代の生活の中にあふれる体温低下を引き起こす要素があるのです。仕事や人間関係でストレスを強く感じると、交感神経が緊張して自立神経のバランスが乱れ、体温低下を招いたり、車や電車等交通手段の発達や、昨今では巣ごもり生活など、慢性的な運動不足により筋力が低下し、体温も低下してしまいます。
運動などで体を動かすと、筋肉が動くことで熱を発生させ、全身が温かくなります。運動で発生する熱は、筋肉の量が多いほど増えるので、体を動かす＆筋力を増やすことが、体温アップのポイントです。
効果的なものは、ヨガやストレッチなどの体に負担をかけずにできるものや、ウォーキングやジョギング、水泳などの手軽にできる有酸素運動。なかなか運動する時間が取れない、という方は、移動するときにエスカレーターやエレベーターを使わずに階段を利用する、目的地の一つ前の駅で降りて一駅分歩く、など、普段の生活の中で、歩数を増やす意識をしてみましょう。今は歩数を計測できるアプリなどもあるので、そういったものを活用して、楽しみながら取り組むのもおすすめです。
気を付けたいのは、体温を上げたいからと言って過度に運動しすぎること。激しい運動をすると逆に交感神経が刺激されて体温が下がってしまう可能性もあるので、心地よいと感じられる程度の負荷にとどめて、適度に身体を動かすことを心掛けてください。
また、入浴も簡単な体温アップ方法の一つ。ゆっくり湯船につかって入浴することで身体全身が温まり、免疫細胞が働きやすい環境が整います。
②質の良い睡眠
免疫力を上げるためには、睡眠も重要です。日中は交感神経が働き緊張状態にありますが、夜になるにつれて副交感神経が優位になり、緊張状態がほぐれていくため眠気が起こります。睡眠中は心身共に緊張状態から解き放たれた究極のリラックス状態のため、免疫細胞が活発化します。朝までぐっすりと安眠して目覚めもよく起きれるような質の良い睡眠ができるよう心がけましょう。
③ストレスを減らす
意外かもしれませんが、ストレスも免疫に大きく影響します。ストレスを過度に感じることで自律神経が乱れ、そのバランスが崩れることで免疫細胞にも影響し、免疫力が弱まってしまうのです。ストレスをためないためには、前述した適度な運動や睡眠のほか、深呼吸や瞑想で身体の感覚に集中して心を落ち着かせる方法がおすすめです。自分の呼吸や意識と向き合い集中することで、緊張から解放されて心身がリラックスし、自律神経が整います。ほかにもリラックス効果のあるアロマを楽しんだり、ハーブティーを飲んだりするのも◎。
④腸内環境を整える
免疫力を上げるには食事も大事な要素の一つ。前述の通り、食事によって粘膜から細菌やウイルスが侵入しやすい腸には免疫細胞の約7割が存在します。NK細胞を活性化させて免疫力を上げるには、腸内環境を整えることが必要です。
腸内には、腸の消化吸収を促す善玉菌と、腸の働きを鈍らせる悪玉菌、善玉菌と悪玉菌の優勢なほうに同調する日和見菌の3種類が生息しています。そのバランスは２：１：７が良いとされています。しかし、偏った食生活やストレス、自律神経の乱れなどによって悪玉菌が優勢になってしまいます。 これを防ぐには腸内環境を整える発酵食品や食物繊維やオリゴ糖を含む食材を積極的に摂ること、野菜や果物、豆類、全粒粉類（玄米や胚芽米など）植物性食品を摂ることがオススメ。いずれも腸内細菌のよいエサになって、バランスの良い腸内環境を育みます。
日ごろから意識して健康な心と身体作りを
このように、免疫力を上げるための生活習慣のポイントはいくつかありますが、シンプルですぐに実践できるものも多いです。日ごろから食事に気を配ったり意識的に身体を動かしたりストレスをためないようにして自律神経を整えることで免疫力を上げるとともに、健康な心と身体作りを目指しましょう。